70代後半夫妻のための離れの計画。敷地は愛知県名古屋市の南東部、ゆるやかな丘陵地帯にある住宅地。夫婦は数奇屋風の住宅に暮らしていて、縁あって隣の敷地を買い増すことになったことから、寒い時期になると体調を崩しやすい夫人のために、冬の間暖かくコンパクトに過ごせる離れと主屋との間を行き来する暮らしを思い描くようになった。また、敷地が道路から2m程度高いため、スロープでアプローチできるようにすることも今後の備えとして強く希望された。2m以上あがるための長いスロープと離れを無理なく配置したうえで、それが暮らしの豊かさに繋がるような在り方を目指した。
具体的には、まず敷地周辺の地形に馴染む造成計画とするため、大きな擁壁は造らない。各部分での高低差が1m以下になるように高さを設定し、あとは法面でつなげて丘の様に造成した。
建物は北側に寄せてなるべく南側隣地のからの引きをとった。スロープは、引きをとった目一杯建物際ギリギリまでS型に開くようにして、庭全体を柔らかく回遊する路地のようにした。スロープの間も法面が挟み込まれるように結び、スロープが機械的な存在にならず丘にシワが寄った程度の雰囲気にできるのではないか。法面の植栽とスロープと軒下がレイヤーになって、引きの浅い庭に奥行きをもたせる。細長い法面の庭は主屋の庭ともつながって大きな緑になる。
スロープをあがると、玄関を通って、真中を貫く廊下につながってくる。廊下の庭側に、暮らしの中心となる 8帖を二間、北側に設備をまとめる構成とした。二つの8帖はそれぞれ、縁、軒下、レイヤー状の庭と、外部とグラデ―ショナルな関係を持つ部屋と、一方は南西の抜けた風景に開いて、月見台から軒下でスロープと直接つながる。月見台はスロープからは丘の中腹にある大きなベンチみたいな存在になっていて、庭の水やりの休憩場所になったり訪れてきた人との接点の場にもなる。内部も8の字に回遊できるようになっていて、スロープを使って主屋へ続く。遠くの風景に視界が抜けるところには注意深く窓を配置し、手前の緑、延長にある周辺の景色と連続するようにして、動線的な体験の中に庭や風景ががからめとらるような、広がりのある暮らしをイメージした。
所在地 :愛知県名古屋市
用途 :個人住宅
構造/規模 :木造/平屋
構造設計 :小松宏年構造設計事務所 小松宏年
建築工事 :吉富工務店株式会社
造園工事 :いのはな夢創園 猪鼻昌司
表具 :株式会社 静好堂中島
畳 :井伊畳店
本漆床板 :龍門堂
木風呂 :坂上住器
簾 :平田翆簾商店
撮影 :浜田昌樹